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この仕事を始めてから世界中の石の産地(石材の採掘場を丁場<ちょうば>と呼ぶ)を見る機会に恵まれるようになりました。
ただし、どの国に行っても石の丁場は都市部や観光地には無く、いわゆる山奥の田舎にあるのが普通なので、有名な観光スポットは通り過ぎて、聞いたこともないような地方のドサ回りをしています。
旅行ガイドブックに載っているような、おいしいレストランやホテルには縁が無い代わりに、地元の人だけが知っている郷土料理や地酒など、そこでしか味わえないという貴重な体験を多くできました。
大理石の丁場の多くは、ヨーロッパの特に地中海沿岸地域に集中しています。大理石は石灰が変質作用で固まった物ですが、その石灰の元はサンゴ礁や動植物の沈殿から始まります。大昔は海中であった所が大理石の産地なのです。
地中海に突き出たイタリアは、その国土のほとんどが大理石層になっていて、日本人になじみの深い白大理石(ビアンコカララ)もイタリアの北部から採掘されています。
イタリアの他、フランス、スペイン、ポルトガル、ドイツ等も石の産地としては有名ですが、これらの国に共通の有名な食品はご存じですか?大理石を検品してから、現地の人と食事に行くと、食卓テーブルに必ず載っている物、そう地元産のワインです。
大理石が採れる土壌は、いわゆる石コロだらけで土地が痩せていて、普通の植物は育ちません。また水はけが良すぎるのか、土はいつも乾燥しています。ところが、ワインの原料であるブドウが育つためには、その条件がピッタリ当てはまるのです。さらに石灰質には多くのミネラル分が含まれているので、「大理石の産地」=「ワインの産地」でもあります。
先程の白大理石(ビアンコカララ)の産地は北イタリア トスカーナ地方ですが、そこの地元ワインは世界的にも有名なキャンティクラシコです。フランスの赤系大理石(ルージュランゲドック)はプロヴァンス地方、グレー系大理石(パロマ)はボルドーの南150Kmの地域、スペインのベージュ系大理石(クレママーフィル)ははバレンシア地方と全てワインの有名産地と一緒です。
もっとおもしろいのは、石の名前とワインの名前が全く同じものがあり、石屋の私にとっては、その石を溶かしたらこんな味になるのかな、など、一人空想しながらワインを飲むのも、楽しみのひとつです。
そういえば、今は亡き尊敬する業界の大先輩社長は、世界中の石山を歩き、流れてくる川の水を舐めただけで、その上流にある良い石の鉱脈の存在を言い当てたという伝説が残っています。
やっぱり石にも味の違いがあるのかも知れません。
今回ホームページをリニューアルしたら、「社長コラム・石のことば」を定期的に掲載するよう業務命令がありました。(誰から?)
思いつくまま、今までの石との思い出を書いていこうと考えていますので、気軽にお読み下さい。
仕事柄か、出張に行っても外出しても、ついつい石があると石に触れたり立ち止まったりしてしまいます。現在我々が扱っている石の平均的な大きさと言うと、ビルの内外壁に貼ってある建築用石材でも、一枚の大きさは、90cm×60cm×3cm位、40 50kgまでの重量が多く、人力でも何とか持ち上げることが出来ます。また、墓石用の場合はもう少し重く、30cm×30cm×80cm、約200kgから、90cm×90cm×30cm、約600kg位までの各パーツを機械を使って組み立てて、総重量3 4トンというのが平均的です。
つまり、我々が目にする石は、工場で加工され易く作業しやすい大きさになっているのが普通と言えます。
ところが、大阪城で石垣を見て、とてもビックリした思い出があります。
ひとつの石の大きさが5.5m(550cm)×11.7m(1,170cm)×0.9m(90cm)あり、重量は何と!!130トンもあります。
石というよりは岩そのものですが、表面はきちんと平らに加工されていて、ちゃんと手が加えられています。大阪城桜門にある通称蛸石と呼ばれる石で、ご覧になった方も多いと思います。この石の産出地は岡山県の犬島という、瀬戸内海の小さな島です。
今の技術でも、今あるどんな機械を使っても、こんなに大きな石は採掘も運搬も加工も出来ません。一体全体どうやって掘り出し、運び、組み上げたのか、あまり資料も残っていません。
今から400年前の人々にそれを聞くことは出来ませんが、それに関係した人々の想いや、当時の苦労は石が語りかけて来ているように感じます。各地の大名が競い、それぞれの石職人のプライドをかけて、日本中から石が集められた。まるで石のチャンピオンを目指すかの如くに…。
大阪城にある巨大石は蛸石を含め100トン以上が4ヶ、50トン 100トンまでが6ヶあり、一覧表にして城内に表示されています。(写真参照)
当時の人々のすさまじいエネルギーが感じられるよう、静かに蛸石に手を触れてみようと思いました。
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